2月にしては、日差しがポカポカと暖かな日だった。
 いつもどおりの何の変哲もない朝を迎えて。
 朝食とその片付けを済ませた後、
「気持ちのいい朝だな。少し、外を歩かないか?」
 ハインリヒはそう言ってジェットに笑いかけた。

 いつもどおりの朝。
 けれども今日は、特別な日だ。
 まだ一言も言わない自分を、少し意地が悪いかも知れないと思うけれど。
 照れくさくて、なかなか言い出せない。

 近くの並木道を、のんびりと二人で歩く。
 木々の隙間からは、太陽の欠片が零れ落ちてくる。
 眩い光の粒子が、二人の周りで踊った。
 なんて美しく、祝福された朝なのだろう。
 ハインリヒは隣を歩くジェットに、じっと視線を当てた。



 まるで当然というように、ジェットはいつでも、自分の隣をハインリヒのために空けてくれている。
 優しい笑顔と共に。
 その優しさの中で、自分がいつも安穏としていることをハインリヒは知っていた。
 今でも胸に残る思い出ごとハインリヒを包んで心を和らげてくれる、ジェットの両の腕と笑顔が好きだ。

 けれども。

 オレはお前に、何をしてやれるんだろうな・・・?

 ふと、そう思うことがある。
 ジェットがいつでも温かな腕で自分を包んでくれるように。

 オレも、お前を包んでやりたいと思うのに。



「ハインリヒ。ボンヤリして、どうした?」
 突然ジェットに呼ばれ、ハインリヒは驚いて小さく飛び上がった。
「べっ、別にっ!」
「そう。それならイイけど?」
 ニッコリと笑いながら、ジェットの腕がハインリヒに伸びる。
「・・・何だ?」
 訝しげに尋ねると、笑みを絶やさないまま、
「え?あんまりボンヤリしすぎると転ぶからさ。オレが、支えてやろうと思って」

 いつもいつも、支えられてばかりだ。
 微かに、自己嫌悪の思いがこみ上げてくる。

「・・・ハインリヒ?何だか・・・泣きそうな顔をしてる」
 琥珀色の瞳が、心配そうにハインリヒを覗き込んだ。
 長い指が、ハインリヒの頬に触れる。
 自身の手の平でそれを包むようにして。
 ハインリヒは、ジェットを真っ直ぐに見つめた。
 すると、どことなく眩しそうに、ジェットが瞳を細めた。
「・・・ジェット」
「ん?何・・・?」
「誕生日、おめでとう」
 唐突に告げると、ジェットの瞳が丸くなり。
 それから彼は、パッと破顔した。

 その眩しい笑顔に、心ごと、攫われてしまう。

「ありがとう。朝から何も言わないから、忘れられてるのかと思ってた」
 照れくさかったのだとは、言えなくて。
「オレは、お前に何をしてやれる・・・?」
 そう言うと、優しく、琥珀の瞳が揺れる。
「側にいてくれるだけでいい」
 その言葉に、何故か涙が出そうな気持ちになって。
 ハインリヒは思わず腕を伸ばし、ジェットをギュッと抱きしめた。

「ずっと・・・側にいる」

 囁くようにして言葉を紡ぐと、ジェットの手の平がポンポンと、ハインリヒの頭を撫でた。

「・・・ありがとう・・・。今年もキミが、一番側にいてくれる。オレには、それがとても嬉しいよ」

 目の前にいるこの男が、どうしようもなく愛しいという気持ち。
 その気持ちは、何故にこんなにきらめきに溢れているのだろうか?
 今日の太陽の日差しに似て、暖かで、優しく輝いている。

 今日も明日も、明後日も。
 共に歩いていく。
 幾度、年が巡っても。

 この気持ちは、決して枯れることはないだろう。
 こんなオレが側にいても良いと、お前がそう、言ってくれるのならば。

『いつまでも、お前だけ・・・』

 言葉に出来なかった代わりに、キュと、抱きしめている腕の力を強くした。

「・・・ハインリヒ」
 突然ヒョイと抱き上げられて、ビックリする。
 そのまま、ジェットの身体がフワリと宙に浮かんだ。
 腕の中でキョトンとジェットを見上げると、
「オレへのプレゼントはキミってコトでOKなんだよな?オレ、今すぐに包みを開けたいから、早く家に帰りたいんだけど?」
 屈託のない笑顔。
「・・・好きにしろ」
 そう、答えると。
 雲ひとつない蒼い空に、ジェットの明るい笑い声が弾けた。



2006年ジェットの誕生日に           
「スィートハニー」のふみふみ様が       
書かれたフリーSSの展示許可を頂きました。
最高のプレゼントを頂くジェットが!      
いつも暖かい24をありがとうございます!