惜しみより楽しみ

「なあ、アンタ本気なのかよ?」

「・・・本気も何も仕方ないだろ」

憮然とした声での問いかけに、これまた応対する方も自然不機嫌な声となった。


場所はドイツのハインリヒの部屋。


先刻実に久し振りの再会となった二人はジェットの熱烈な再会のキスもあって

それ以上言葉を交わすのももどかしく、ベッドルームへと場所を移したのだが、

二人が互いの服に手を掛ける前に一足早く部屋に鳴り響いた電話。

それは急な仕事の電話で、内容と時間からしてハインリヒの他に頼める人はいないというものだった。


もちろんハインリヒがそれを断るはず無い。


それで、冒頭の会話へと至るわけだが・・・・。

「仕事に行くって・・・・アンタ、俺より仕事の方が大事なんだ?」

「そうは言ってないだろ。大体俺だって何も好き好んでこうして仕事に行くわけじゃないんだ。」

「なら断ればよかったじゃないか。」

売り言葉に買い言葉。

言葉を重ねるほど、余計に互いが互いにいらだってしまう。

「お前は俺を困らせたいのか?」

「別にそういう訳じゃない。・・・・そうじゃないけど・・・・そんなやっぱ仕事を取るなら、

 何か俺愛されてないのかなって疑いたくなっちまうから。」

「・・・・・。」

その言葉に思わず口を閉ざしたハインリヒだったが、次の瞬間には真っ赤に染めた顔で、

なにやら決心したような素振りを見せると、ジェットの襟元を引っ張った。

「えっ・・・!」

そして驚くジェットをよそに、そのままハインリヒは唇を重ねた。

しかもそれは触れるだけのものではなく、ハインリヒの方から舌を絡めてくるなんていう濃厚なものだった。

もちろんこんなこと滅多に無い。

だからジェットはしばし呆然としされるがままになっていたが、どれだけこれが自分にとって嬉しいことだったかに気付くと、

ハインリヒの腰に腕まわして強く抱き寄せながら自らも積極的にキスへと答えた。

そしてやがてハインリヒに抵抗するように胸元を叩かれ、ようやく手を離したジェットが見たのは

微かに欲情を目元に刷いたハインリヒの姿だった。

「・・・・わかったか。」

「え?」 だからそれに見とれていてジェットはとっさにハインリヒが何を聞いたかわからなかった。 するとそんなジェットに焦れたのか、

ハインリヒは怒ったような声で続けた。

「だからちゃんと俺がお前を・・・・愛しているってわかったか?」

セリフの後半は恥ずかしくなったのか、消え入りそうなものになってしまっていたが

それを聞いたジェットは笑みを深めた。

「うん、・・・・ちゃんとわかったよ。」

普段なら積極的になることのあまりない愛しい人が、自分が少し愛を疑ったなんて言葉を口にしただけで熱いキスをくれた。

それだけで今のジェットには十分だった。

「あ、でもどうせなら仕事終わってから・・・・もっと積極的に俺の上に乗ってくれたり、口でしてくれてもいいんだけど?」

だが思わずそんなセリフを口にせずにはいられなくて、次の瞬間にはジェットは照れと怒りの混じった恋人の鉄拳に床に沈むことになって

「少しの間だからな。・・・・・起きて待ってろよ。」

出掛けにそんな言葉を口にしたときのハインリヒの表情を見ることは叶わず。

しかしハインリヒの帰宅後の展開を想像して、思わず頬が緩むのを止められなかった。


そう、二人の間には別れを惜しむことよりそれまでも楽しみにしてしまう方がきっと似合う。


20600番キリリク 一時の別れを惜しむ二人とリクエスト。
なんだかんだ言っても、24はぶつかり合うことでお互いの想う気持ちを深めていくのですね。
そして・・私も帰宅後の展開が気になります(笑)

これまた妄想逞しくなりそうなお話ありがとうございました!

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