写真という手段で
ジェットがカメラを買った。
しかしそれは今のデジタルな世の中に反するかのようにアナログのカメラで、
もちろんそういうカメラを愛好して 素晴らしい写真を撮る人々がいるのも知っているが、
それでもジェットにそんな崇高な趣味などあったようには思えなくて 写真を撮りに行くという彼に付き合う形で外に出た、
まだ残暑の陽射しの残る中でカメラを構える後姿に声をかけた。
「どうして突然カメラ・・・・それもそんなアナログのものを買ったんだ?別に俺達にそんなものは必要ないし、
もし仮に必要だったとしても、それなら加工などするのに便利なデジカメの方がよかったんじゃないか?」
すると迫り来る夕陽をどうやって捉えようと画策していた彼は、その手を止めぬまま言った。
「だって俺は取った写真を加工する目的があったわけじゃない。ただこうして写真の隅につく日付と一緒に
この一瞬というのを焼き付けておきたかったんだ。」
「・・・・何故だ?」
彼のそんな言葉だけではその意図というのが理解できなくて、さらに説明を求めるように問う。
すると手を止めて振り返った彼は笑みを浮かべて言った。
「だってアンタはさっき必要ないって言ったけど、何かの記念とかに写真に撮って残そうと思うのは別にこんな俺達だって構わないだろう?
俺達は確かにこの姿は不変かもしれないけど、心はそうじゃない。そんな心のためにこうしてある年のある一時を
写真というものに焼き付けておいて、何年もたってからそれを見返しながらこんなときもあったな、
と笑い会えれば素敵じゃないか。」
「確かにそうかもしれないが・・・・。」
そんな言葉を聞きながらもどこか腑に落ちない気がして更に言い募ろうとしたが、
それは彼に不意に腕を引っ張られたことで途切れた。
「いいから、アンタはいろいろ深く考えすぎなんだよ。とにかく俺が写真を撮るのは心の為。
写真は懐かしむという感情を呼び起こす心を助ける手段なんだ。だから今は・・・。」
「オイ・・・!」
そして抵抗する間も無く切られたカメラのシャッター。
「よし、これで夕日とアンタという綺麗なものを同時に収めた写真が撮れた。」
「お前・・・。」
「何?アンタも俺を撮ってくれる?」
悪びれずにそう次から次へとテンポよく言葉を紡ぐ彼にもうこれ以上何を言う気にもなれずに、
ただ溜息を一つ落とすとそれでも自然に口元に浮かぶ苦笑と共に言葉を改めて継いだ。
「わかった、ほらお前もさっさと夕日を背にして好きなポーズでも決めろ。」
そして受け取ったカメラのファインダー越しに見つめる彼は、
お世辞でなく何だかいつもより格好よかった。
だからそのままシャッターを切ると少しだけ楽しみにすることにした。
現像したフィルムに写る今この瞬間の彼の姿。
それを手にした自分はきっと確かに今のこの一瞬とやりとりを思い出すだろうから。
思い出を呼び起こす手段の為の写真。
滅多に自分から撮ることはないだろうけど、それでもこれならいいかもしれない。
36000番キリリク 「写真」というリクエストでした。彼らの写真・・欲しい。
プライベート写真ふふ・・・。
ジェットが撮ったハインさんの写真はさぞかし美しいでしょうなあ。
妄想が膨らみます。
ありがとうございました!
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