フレーズ

「熱くて寒いんだ。」

 赤い顔をして、ハインリヒが言った。

 昨日朝起きた時に、少し喉が痛くて、頭痛もしたから、ああまずいなと思ったのだけれど、何もせずに1日経ってみたらこの様だ。

 もうベッドから這い出る気にもなれず、パジャマの襟を少しゆるめて、だらしなく手足を伸ばす。

 目が潤んでいるのが自分でわかる。ハインリヒは何度か瞬きをして、それから、完全には持ち上がらないまぶたを、重そうに半開きにした。

 そうすれば、正しい体温がわかるとでも言うように、ジェロニモの大きな掌が額に乗る。指先が、熱の湿りでくたりとした前髪をかき上げて、優しく撫でるように、そこで動いた。

 ハインリヒは、今は少し冷たいように感じるジェロニモの掌がとても心地良くて、もう一度ゆっくりと瞬きをしてから、まるで頬まですりつけるように、あごをちょっと突き上げた。

 「風邪だ。」

 低い声が、小さく響いた。

 どうしてか、ジェロニモにそう診断された途端、ハインリヒはずいぶんと気分が楽になったような気がして、溶けるように体の力を抜く。

 そう言われたって、ありがたくも何ともないはずなのに、ジェロニモに言われると、熱の高さに強く脈打っている首筋の辺りを、ひどく優しく撫でられたような、そんな気分になる。

 きっと、風邪を引いた自分を、これからジェロニモが甘やかしてくれるだろうと、そう思うからだ。

 これから甘やかすぞという、ジェロニモの合図に聞こえるからだ。

 熱を測った掌が、ゆっくりと離れてゆく。

 「スープを作ろう。とりあえず、リンゴをすってくる。」

 食べさせてくれと言ったら、ジェロニモはあきれるだろうかと、ハインリヒをもう一度心配そうに見つめてからドアへ向かう、大きな背中を見送る。

 音もさせずにジェロニモが閉じたドアから目を離さずに、ハインリヒは熱にかすれた声で、ダンケ、と言った。

 それから、ようやく、風邪だと自分に言い聞かせて、熱が下がるのを少しだけ惜しみながら、目を閉じた。




「機械人間通り9番地」みの字様
チャレンジされている100のお題bR9「フレーズ」より展示許可を頂きました。

○ッフィーちゃんと54萌えの変な勢いで送ってしまった絵から
大変可愛らしい54が拝見できました!

萌えを下さったみの字様、ありがとうございました。

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