居場所

生涯一役者などと意気込んでいたのは何時の頃だったか。

気付けば酒に身も心も捧げてしまった自分など、もはや社会から見れば真っ当な人間とも言い難く、

名役者のグレート・ブリテンとしてはもちろん、

ただのグレートという人間としてですら 自分のことを知る人間などいつの間にかいなくなってしまっていた。

そんな折だった。

ブラックゴーストに攫われサイボーグナンバー007として改造を施されたのは。

カメレオン。

その渾名が本当に良く体をあらわしていて、当初は声をあげて笑わずにはいられなかった。

役者崩れの自分が授かるにはこれほど相応しい能力はないと。

しかしすぐにそんな自分の皮肉が、極些細なことだと思い知らされた。

自分と同じく改造されたという同じゼロゼロナンバーの彼らと出会い、

そして言葉を交わすにつれ知った皆の境遇。

そんな中、元役者がカメレオンだと自虐的に大げさに言った自分に彼は静かに笑んで言ったのだ。

「それなら最愛の人を死なせてしまった自分が死神と言われるのも、やはり当然ということか。」

彼は004・・・全身武器のサイボーグであり、確かに死神と称されていたが、

彼がそれだけとはいえ自分の過去を口にしたのはそのときだけだった。

そんな彼の言葉とその内容に自分の皮肉を恥じると同時に純粋に彼に興味を持った。

いつも寡黙で必要最低限のことしか口にしない彼。

そんな彼が抱え込んでいるらしい事柄を単に知りたくなったのだ。

これは単なる好奇心でしかなく、しかし他にこれといった娯楽もなかったあの状況下では

その好奇心を満たすぐらいしか何もなかったのだ。

だからそれ以降積極的に004に話しかけるようになった。

その過去を吐露してくるのを待つためだけに。

自分のそんな姑息な作戦は順調に進んでいるように見えた。

彼は少しずつだが所謂無駄話にものってくるようになった。

そしてそれに伴って硬かった仮面のような表情が柔らかくなっているのも確かだった。

このままより親密になれば一人の友人に対して・・・と彼の過去についての話も近い内に聞かせてもらえるだろう。

しかしそうなる前に思っても無かった人物に話がある、と呼び出される羽目になった。

相手は不愉快だという表情を隠しもしない002だった。

「アンタ一体彼に近付いてどうするつもりだ?」

「どうする・・・とはまた物騒な。」

単刀直入そう言い出した002に落ち着いて返す。

「大体彼とは・・誰のことだい?」

「とぼけるなよ。・・・004のことだ。」 002はイラついた様子で言った。

「アンタ最近必要以上に004と話をしたりしているからさ。どういうつもりでそんな事してるかって聞いてんだよ。」

「・・・確かにそうかもしれないが、それは我輩の勝手だろう?  いちいちお前さんに説明する義理は無い。」

「・・・てめっ・・・!」 002はこちらの言葉に怒りをあらわにしたが、

それでもそれを押さえ込むように拳を握るとそれから言った。

「じゃあこれだけ答えろよ。アンタは004にどんな感情を抱いている?」

「感情?」 002の言葉の意図する所がわからずにそう聞き返すと、

相手は酷く真剣な目をして頷いた。

だからこちらも正直に答えても構うまい・・・と素直な気持ちを口にのせた。

「しいて言うなら・・・興味かな?我輩は単に彼の過去が気になるだけだ。」

「・・・本当にそれだけなんだな?」 念を押すようにそう続ける002にこちらも頷くと、それから尋ねた。

「それで、お前さんはどうなんだ?」

「え?」

「何故お前さんは我輩が004に近付くのをそんなに気にするんだ?

 まさか彼が好きだとでも言うのではなかろうね?」

だがそんな言葉に彼は頬を染めると吐き捨てるように言った。

「悪いか?俺はアイツが好きだ。だから俺以外の奴が近付くのが気にいらねえんだよ。」

「・・・ほう。ではつまりは我輩に嫉妬したというわけかい。若いねえ。」

すると彼は叩きつけるように言った。

「ああそうさ。とにかくアンタ興味だなんてそんな理由でアイツにこれ以上近付くんじゃねえぞ。」

そしてそれだけ言うと002はそのまま立ち去ってしまった。

そんな彼の後姿を見送りながら苦笑せずにはいられなかった。

003という可憐な少女がいるのにかかわらず、自分よりも年上の男に惚れたという002が理解しがたかったのだ。

しかしその一件以来おもしろい事に気付いた。

002の話題を振ると必要以上に過剰な反応を返す004。

そしてそれからまたしばらくして004が自分の過去を話してくれたが、

その頃は既に002と一緒にいる004の姿というのを 数多く目撃できるようになってから大分経っていた。

どうやら002の御陰とやらで004は少しずつ変わっているようだった。

そしてそのためにおそらく過去も話せるようになった004のことを考えて、ふと気付いた。

004の過去を聞いたのだからもうこれ以上彼に関わる必要も無いのに、知らぬ間に目が彼を追ってしまうことに。

そしてだからこそ002と一緒にいるなどというのにも気付くことになったのだと理解して、

それから愕然とした。

どうやら自分も004に想いを寄せる002のことを笑えない・・・002と同じ立場であったらしかった。

しかしそれなのにそんな自分の004に対する気持ちを気付かずに、ただ興味であるとしか認識していなかったとは。

・・・自分の愚かさにたまらず苦笑を浮かべ、それから自分に突っかかってきた002のことを思った。

もしかしたらあの時002はこっちが自分ですら気付いていなかったこの感情を、

傍から見抜いてああ言ってきたのではないか。

そう考えて今度は純粋な笑みが浮かぶ。

たとえどうあっても既に002と004は互いしか見えていないのだから、

外野が何をした所で関係ないだろう。

だから自然に彼らが出来るならば幸せになって欲しいと願っていた。

それからもう何年経ったのか。

彼ら以外に唯一のマドモアゼルにも一緒に幸せを育む相手が出来て微笑ましい限りだ。

そして我輩自身もこうしてグレート・ブリテンという一人の人として生きられる この暖かな大事な場所を手に入れることが叶い、

満足な日々を送っているのだった。


26000キリリク 74で胸に秘める思い・・・一応管理人様の許容範囲でお願いしましたが、
24サイトでいらっしゃるハヤト様に申し訳なかったです。
その我侭なリクエストに応えてくださりありがとうございました!
2と7のハインさんへの思いの違いとか
客観的に分析しようとしながら心乱された7が切ないです。

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